「遺言書を書いておきたいが何から始めればいい?」こんな疑問をお持ちではないでしょうか。遺言書の書き方は法律によって要件が定められています。
もしも、これを満たしていないと、せっかく書いた遺言書が無効になってしまいます。また、要件を満たしていても相続トラブルを招くこともあります。
本記事では、遺言書を作成する手順やポイントを解説します。
遺言書を書く前に確認しておきたいポイント
遺言書を作成する前に、必要な情報をまとめて整理しておきましょう。せっかく遺言書を残しても、内容に不備があると相続人同士でトラブルになったり、相続手続きが煩雑になったりと、遺されたご家族が困ってしまいますので、事前の準備はしっかり行いましょう。
相続財産を整理する
ご自身の財産がどれぐらいあるのか、正確に洗い出します。預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も相続の対象になりますので、抜け漏れなく正確に洗い出しましょう。
プラスの財産の例
- 現金・有価証券:現金、預貯金、株式、投資信託、小切手など
- 不動産:土地、建物、借地権、店舗、農地など
- 動産:自動車、骨董品、宝石、貴金属、美術品など
- その他:ゴルフ会員権、著作権など
マイナスの財産の例
- 負債:住宅ローン、借金、買掛金など
- 税金関係:所得税、住民税など未払いの税金
- その他:未払いの家賃、未払いの医療費など
相続人を確認する
誰に財産を遺したいのか確認しましょう。遺産相続において、遺言書の内容が最も優先されますので、相続人を誰にするのかは被相続人が自由に決めることができます。
遺言書で指定すれば、内縁関係の配偶者やお孫さん、お世話になった方にも財産を遺すことができます。
また、遺留分の請求権を持っている相続人も確認しておきましょう。遺留分は最低限の遺産を受け取れる権利を持つ相続人のことで、遺言書に財産を相続させる旨が書かれていなくても、相続の権利が発生します。
例えば、前妻(夫)との間の子供にも相続権があります。また、「長男のA夫に全財産を相続させる」と遺言を書いても、配偶者や他の子供には遺留分があり、主張すれば一定の財産を相続できます。
遺留分の請求は相続トラブルの火種になりかねませんので、あらかじめ遺留分に配慮した財産の分け方を検討してください。
遺言の内容を決める
「誰に」「どの財産を」「どの割合で」残したいのか決めます。財産の分け方に決まりはありませんので、分け方はご自身の自由です。この時に、曖昧な表現にならないように注意しましょう。
例えば、遺言書に「私の土地は次男のB夫に任せます。」と書かれていても、土地とはどこの土地のことなのか、任せますとは相続させるという意味なのか、曖昧で読み取れません。
これでは、他の相続人とのトラブルを招きかねませんので、誰が読んでも読み取れるように書かなくてはいけません。また、財産を分ける際も遺留分に配慮されたほうが後々のトラブルを防げます。
付言事項を残すとより良い
遺言書で指定した財産の分け方が不平等であったり、法定相続分とは違う割合で財産を分けたりした場合に、相続人同士がもめる可能性があります。例えば、「住宅と預貯金は妻に、株式は子供達で均等に分割する。」と言った内容です。
この時に、なぜこのような分け方をしたのか、その理由を書き残しておくことができます。これを付言事項と言い、法的な効力はありませんが、遺されたご家族が遺留分をめぐって争いになることを避けることができるかもしれません。
遺言の内容に不平等がある場合、取り分の少ない相続人は不満に思うでしょう。しかし、「妻の生活を守りたい」「介護をしてくれた長男に多く配分したい」など、財産の分け方の経緯を記しておくことで、相続人の不満を軽減できるケースもあります。
遺言の内容が決まったら書面にする
遺言の内容が決まったら、書面にします。遺言書の形式にはいくつか種類がありますが、今回は一般的によく用いられる自筆証書遺言と公正証書遺言について解説します。
自筆証書遺言
被相続人が自筆で作成する遺言書です。遺言内容はもちろん、日付や署名まですべて自筆でなくてはならず、代筆やパソコンでの作成は認められていません。手軽に作成できる反面、要件の不備などで遺言書が無効になるトラブルが起こりやすいです。
公正証書遺言
公証役場の公証人が作成する遺言書です。遺言内容を公証人が書面にしていきます。費用はかかりますが、公証人が遺言書の要件をチェックしてくれますので、遺言書が無効になるトラブルがなく安心です。
では、具体的な作成方法を解説します。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言はパソコンや代筆ではなく、必ずすべて直筆で書かなくてはなりません。用紙や筆記用具に指定はありませんが、長期間保管されることを考え、なるべく丈夫な用紙や消えにくいペンを選びましょう。
自筆証書遺言の要件は下記の5点です。この中のどれかひとつでも欠けると、その遺言書は無効になってしまいます。
自筆証書遺言の要件
- 全文を自筆で書く(財産目録以外)
- 自筆で正確な日付を書く
- 自筆で署名する
- 押印する
- 訂正する場合は訂正印を押す
相続財産が多い場合、すべて手書きで書くのは大変です。そのような場合には、遺言書に「別紙、財産目録に記載の財産は〇〇に相続させる」などと書いておき、財産目録を用意しましょう。
財産目録は、パソコンでの作成や代筆も認められています。形式に指定はありませんが、必ず被相続人の自筆の署名と捺印が必要です。
自筆証書遺言の保管方法
ご自身で保管する方法と法務局で預かってもらう方法があります。
自筆証書遺言をご自身で保管する場合、相続人の方が遺言書を見つけられない可能性や破棄・偽造・隠匿の恐れがあります。
法務局の自筆証書遺言保管制度を利用すれば、このようなリスクを回避できます。これは自筆証書遺言を法務局で管理・保管する制度で、開封時の裁判所の検認も必要ありません。
相続が発生したら
遺言書をご自身で保管している場合は、遺言書を開封する前に、家庭裁判所で検認の手続きをしなくてはいけません。検認をせずに遺言書を開封してしまうと、5万円以下の過料が科せられます。
遺言書を法務局に預けている場合は、法務局に問い合わせてください。どこの法務局からでも遺言書の有無を検索できる仕組みになっています。
公正証書遺言の書き方
ご自身で決めた遺言内容を元に公証人と打ち合わせを行い、遺言書の原案を作成します。いきなり公証役場に行って、その場で遺言書を作ることはできませんのでご注意ください。
また、公正証書遺言には、遺言者の本人確認書類・印鑑証明・戸籍謄本・財産資料・証人2名が必要です。お持ちの財産の種類によって必要な書類が変わってきますので、公証人と相談しながら集めましょう。
遺言内容が確定したら、公証役場で公証人が遺言を読み上げ、内容に間違いが無ければ、遺言者、公証人、証人2名が署名捺印し完成です。
※この時の証人2名は相続において利害関係がある人は選出できません。ご自身で指定することも可能ですが、手配が難しければ公証役場で手配してもらうことも可能です。
公正証書遺言の保管方法
公正証書遺言の原本は公証役場で保管してもらえます。遺言者には公正証書遺言の正本と謄本が各一部ずつ交付されます。
相続が発生したら
公正証書遺言は全国どこの公証役場からでも検索できます。戸籍謄本(相続人であることの証明)と本人確認書類を持参すれば、どこの公証役場に遺言書が保管されているのか、教えてもらえます。
遺言書を残しておいた方がいいケース
「うちには遺言書なんて必要ない」と考える方もいるかもしれませんが、近年では遺産分割でもめるケースも多いため、準備しておくに越したことはありません。特に以下のケースに当てはまる場合は、遺言書の用意がおすすめです。
財産を均等に分割できない場合
特にトラブルになりやすいのが実家など不動産の相続です。預貯金や株式などであれば、相続人同士で均等に分けやすいのですが、不動産を分割するのは困難です。相続人のどなたかが財産を多く相続することになり、不平等感からトラブルにつながりやすいです。
子どもがいないご夫婦の場合
子供がいない夫婦の場合、配偶者のほかに父母や兄弟姉妹も法定相続人になります。たとえ配偶者にすべての財産を遺したいと考えていても、遺言書がなければそれはかないません。特に配偶者とほかの相続人の仲が良好ではない場合、遺産分割の話し合いが難航しやすいです。
相続人との関係が複雑な場合
前妻(夫)との間の子供や認知している婚外子も法定相続人になります。一方、内縁関係の配偶者や養子縁組をしていない配偶者の子供は、法定相続人ではありません。
法定相続人ではない人に財産を残したい場合は、遺言書でその旨を明記する必要があります。
まとめ
遺言書はご自身で作成することもできます。しかし、法律で定められた遺言書の要件を満たしていないと無効になってしまうリスクもあります。また、遺言書の要件を満たしていても、曖昧な表現が含まれていたり、遺留分を侵害していたりと、相続トラブルに発展する可能性もあります。
せっかく作った遺言書が無効になったり、ご家族の不仲を招いたりするような事態は避けたいものです。遺言書の作成に不安がある場合は、「アヴァンス法務事務所」ご相談下さい。