「遺産分割協議書は必ず作成しなくてはいけないのか?」法律や相続の知識がない方は判断に迷うでしょう。
作成は義務ではありませんが、相続税の申告や相続財産の名義変更を行う際に、提出を求められる場合があります。また、後々の相続トラブルを防ぐために作成しておいても良いでしょう。
この記事では、遺産分割協議書が必要・不要なケースの判断基準と、書き方について解説します。
まずは基礎知識、遺産分割協議書とは?
遺産分割協議書とは、被相続人(亡くなった人)の財産を、「誰が」「何を」「どの割合で」取得するのかを相続人全員で話し合い、合意した内容をまとめた書類です。
法律上、必ず作成しなくてはいけないものではありません。しかし、遺言書が無い場合や、遺言書の内容とは異なる分け方で財産を分配する場合に、後々のトラブルを避けるためにも、相続の内容を書面に残しておいた方が良いでしょう。
また、相続税の申告や不動産、株式などの名義変更を行う際に必要になる場合があります。
遺産分割協議書が必要なケース
遺産分割協議書が必要になるのは、主に以下のケースです。基本的には「遺言書が無い場合」が想定されます。
法定相続分と異なる割合で財産を分配する
民法で相続人の相続割合が定められています。これを法定相続分と言います。ただし、「この割合で財産を分けなさい」と強制するものではありません。相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で財産を分配することができます。
相続人全員で話し合い、法定相続分と異なる割合で財産を分配する場合は、遺産分割協議書の作成が必要です。不動産の名義変更など、後々の相続手続きに必要になります。
名義変更が必要な財産がある
不動産や有価証券、自動車などを相続する場合は、名義変更の手続きが必要です。この時に遺産分割協議書の提出を求められるケースがあります。
相続税を申告する
相続税を申告する際に、遺産分割協議書が必要になる場合があります。特に、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を利用する場合は、必ず遺産分割協議書の提出を求められます。
後々のトラブルを防ぎたい
相続の手続き上は必要なくても、後々、生じるかもしれない揉め事の予防として、遺産分割協議書が役に立ちます。誰がどの財産を相続したのか、時間の経過とともに記憶も曖昧になってしまいます。
後になって「財産をもらった、もらっていない」という揉め事を避けるためにも、書面に相続内容を書き記しておいた方が良いでしょう。
遺産分割協議書が不要なケース
遺産分割協議書が不要なケースもあります。
遺言書で遺産分割の内容が指定されている
遺言書で相続財産の分割方法が決められている場合は、遺産分割協議書の作成は不要です。その遺言書で財産の分配方法を法的に証明することができるからです。相続の手続き上も、遺言書があれば遺産分割協議書の提出は不要です。
ただし、遺言書の内容とは異なる内容で遺産分割を行う場合は、遺産分割協議書が必要になります。
法定相続分で分割する場合
遺言書が無くても、法定相続分で財産を分割する場合は、遺産分割協議書の作成は不要です。ただし、不動産など、物理的に分けにくい財産をお持ちの場合は注意が必要です。
不動産を法定相続分の割合で共有持分にすると、後々、売却やリフォームを行う際に、所有者全員の合意が必要になります。また、不動産の共有者の誰かが亡くなった時に、相続関係が複雑になります。
思わぬトラブルを招きやすいため、よく考えて判断しましょう。
名義変更が不要な場合
相続財産が現金・預貯金のみの場合など、名義変更が必要な財産が無い場合は、遺産分割協議書の作成は不要です。
預貯金は遺言書や遺産分割協議書が無くても、金融会社が指定する申請用紙に法定相続人全員が記入することで、払い戻しができます。
相続財産に不動産や株式、自動車などがある場合は、相続した方の名義に変える必要があります。
相続税の申告が不要な場合
相続財産の合計額が基礎控除額より少なく、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を利用しない場合は、相続税の申告は不要です。
相続税の基礎控除額は下記の計算式で算出されます。
3,000万円+(600万円+法定相続人の数)
相続人が1人しかいない
相続人が1人しかいない場合は、そもそも遺産「分割」が行われませんし、協議を行う相手もいません。そのため、遺産分割協議書の作成は不要です。ただし、他に相続人がいないかどうか、戸籍を取り寄せてしっかり確認しましょう。
遺産分割協議書を作成する流れ
遺産分割協議書を作成する流れは下記のとおりです
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人を調査する
- 相続財産を調査する
- 遺産分割協議を行う
- 遺産分割協議書を作成する
遺言書があれば、遺産分割協議書を作成する必要がなくなるかもしれませんので、慌てずに順番に作業を進めましょう。
①遺言書の有無を確認する
まずは、遺言書の有無を確認します。自宅の他、銀行の貸金庫、公証役場、法務局などで保管しているケースもありますので、注意深く探しましょう。
自筆証書遺言の場合
被相続人が自筆で書いた遺言書で、最も一般的な遺言書です。この遺言書が見つかった場合は、勝手に開封せずに、家庭裁判所に検認の申立てをしましょう。
また、法務局が自筆証書遺言を預かってくれる制度もありますので、自宅に遺言書が無い場合は、法務局に問い合わせてみましょう。法務局に預けられていた遺言書の検認は不要です。
公正証書遺言の場合
公証役場の公証人が作成した遺言書です。遺言書の写しをご本人が保管している場合もありますが、見つからない場合は、公証役場の検索システムで調べてもらいましょう。どこの公証役場からでも調べてもらえます。
遺言書があり、遺産分割の方法が指定されている場合は、基本的にその内容に従います。相続財産は、もともとは被相続人の財産であり、本人の意思が明示されているのであれば、その意思を尊重すべきという考え方基づくためです。
もし、遺言書が無い場合は、相続人全員で財産をどのように分割するか話し合う、遺産分割協議を行います。
②相続人を調査する
続いて、誰が相続人なのか調査します。被相続人の戸籍謄本を取り寄せ、被相続人の子・親・兄弟姉妹等を調べ、相続人を特定します。
戸籍謄本を集めるのは大変な作業です。何度も本籍を移動している、結婚、離婚、養子縁組などで相続関係が複雑になっている場合は、専門家に依頼した方がいいでしょう。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要です。後から相続人が見つかると、せっかく行った遺産分割協議をやり直さなくてはいけなくなりますので、慎重に行いましょう。
③相続財産を調査する
次に遺産分割の対象となる財産を調査します。
被相続人が所有していた、現金、預貯金、不動産、株式、その他動産などを調査します。遺産相続と聞くと、プラスの財産を想像しますが、借金などのマイナスの財産も含まれますので、正確に洗い出します。
プラスの財産の例
- 現金・有価証券:現金、預貯金、株式、投資信託、小切手など
- 不動産:土地、建物、借地権、店舗、農地など
- 動産:自動車、骨董品、宝石、貴金属、美術品など
- その他:ゴルフ会員権、著作権など
マイナスの財産の例
- 負債:住宅ローン、借金、買掛金など
- 税金関係:所得税、住民税など未払いの税金
- その他:未払いの家賃、未払いの医療費など
④遺産分割協議を行う
調査した内容を元に、相続財産を「誰が」「何を」「どの割合で」相続するのかを話し合います。そして、必ず相続人全員の合意の上、決定する必要があります。
⑤遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議で合意した内容を書面にまとめます。 書き方に決まった様式はありませんが、「誰が」「何を」「どれだけ」相続するのかを明確に記載します。
POINT①被相続人、相続人の情報を正確に記載する
戸籍を参考に正確に記載しましょう。氏名に加え、本籍地や死亡年月日、住所も記載しておきましょう。特に氏名に関しては、登記申請時に厳しく確認されるため、戸籍との表示にずれがないようにしてください。
POINT②財産の情報を正確に記載する
例えば、預金の場合は、金融機関名・支店名・預金の種類・口座番号・金額を記載します。自動車であれば車検証の表示に従い登録番号・車台番号を記載します。不動産であれば全部事項証明書(登記簿謄本)を参考に記載します。
POINT③相続人全員の署名と押印をする
遺産分割協議書は相続人全員で作成するものですので、全員の署名と押印が必要です。一人でも欠けていると無効になりますので注意してください。そして、相続人全員が各一部ずつ所有します。
POINT④割印や契印を押す
遺産分割協議書が複数枚に及ぶ場合は、差し替えや改ざんのリスクが高まります。そのため、書面が複数枚にわたる場合は「割印」や「契印」を押しましょう。
「割印」は、書面が2通以上の場合に利用するものです。書面をずらして重ね、印影がまたがるように押印します。「契印」は、書面を見開きにした状態で、ページをまたぐように押印します。
POINT⑤相続税の申告期限に留意する
遺産分割協議書の作成自体に期限はありません。しかし、相続税の申告は相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行わないといけないため、遺産分割協議書の作成もそれまでに済ませておく必要があります。
まとめ
遺産分割協議書の作成は義務ではありません。「遺言書が遺されている」「相続人が1人だけ」「財産が預貯金のみ」など、あえて作成しなくてもいい場合もあります。
逆に、相続財産の名義変更や相続税の申告などで必要になる場合もあります。また、後々のトラブルを防ぐためにも有効です。ご自身でも作成できますが、相続関係が複雑など、相続問題でお困りの場合は、アヴァンス法務事務所にご相談ください。
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