遺言書が無効になるケースとは?トラブルを回避するためのポイントを解説

遺産相続

遺言書は法律で定められた形式で書かれていないと、無効になる可能性があります。また、形式に不備が無くても相続トラブルにつながるケースもあります。この記事では、遺言書の基礎知識に加え、無効と判断されるケースや注意点について解説します。

遺言書にはどんな役割があるのか

遺言書にはどんな役割があるのか

遺言書とは、被相続人(財産を残す方)が財産を「誰に」「何を」「どの割合」で相続して欲しいかを伝えるための書面です。

遺言書が無いと、誰が相続人なのか調査し、どんな財産があるのか調べ、財産をどのように分けるかを話し合わなくてはいけません。この話し合いは相続人全員の合意が必要なため、仲が悪かったり、疎遠になっていたりする相続人がいると連絡を取るだけで一苦労です。

また、財産の調査も一苦労です。複数の銀行にお金を預けている、ネットバンクやネット証券など、ご家族が見つけるのが困難な財産もあるでしょう。不動産など分割しにくい財産も相続トラブルの火種になります

このような相続トラブルを避けるために遺言書があるのですが、その遺言書が無効になってしまうケースがあります。この記事ではそんな遺言書トラブルの回避方法を解説していきます。

よく利用される自筆証書遺言と公正証書遺言

よく利用される自筆証書遺言と公正証書遺言

遺言書にはいくつか種類がありますが、一般的によく利用される「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」が無効になるケースについて解説していきます。

まずはそれぞれの遺言書の特徴をご説明します。

自筆証書遺言とは

遺言者が遺言の内容を自著する遺言書です。この形式の遺言書は、紙と筆記用具さえあれば、手軽に作成できます。「父親の遺言書が金庫に入っていた」といったように、一般的にイメージされることが多いのも自筆証書遺言による遺言書です。

自筆証書遺言は、日付・署名と共に遺言の内容をすべて自筆で記載します。相続財産の内容をまとめた「財産目録」を別紙で残すことも可能です。財産目録はパソコンや代筆で作成することも可能ですが、署名と押印が必要です。

公正証書遺言とは

公証人が被相続人から聞き取った遺言内容を書き起こして作成する遺言書です。公証人が作成した遺言書を読み上げ、被相続人と証人2名が確認し、署名捺印して完成です。

公証人が遺言書を作成しますので、形式の不備で無効になる心配がありません。自筆証書遺言のように手軽な方法ではありませんが、確実性が高く安全です。

遺言書が無効になるケース

遺言書が無効になるケース

自筆証書遺言と公正証書遺言が無効になるケースをそれぞれ解説します。

自筆証書遺言が無効になるケース

自筆証書遺言は手軽な反面、法律で定められた様式に不備があると無効になってしまいます。自筆証書遺言が無効になってしまう代表的なケースは以下の通りです。

自筆ではない

自筆証書遺言はすべて自筆で書くことが前提です。一部分だけでもパソコンでまとめたり、録音・録画したりしたものは無効になります。なお、遺産目録は、パソコンや代筆で作成することが認められています。(署名と押印は遺言書と同様に必要)

日付が記載されていない

いつ書かれたか分からない遺言書は無効になります。元号・西暦はどちらでもかまいませんが、「令和○年△月□日」のようにはっきり記載する必要があります。「〇年△月」や「令和○年△月吉日」のように具体的でない日付は無効になります。

署名、押印がない

自筆の署名と押印が無い遺言書は無効になります。また、添付書類の財産目録にも署名と押印が必要です。

訂正方法が誤っている

遺言書の訂正方法にも決まりがあります。訂正箇所を2重線で消し、変更した内容を記載・押印します。さらに訂正箇所の近くの余白に、削除や加えた文字数を記載し署名します。1ヶ所でも訂正方法を間違うと、全文が無効になります。

公正証書遺言が無効になるケース

公証人が作成する公正証書遺言は、様式の不備で無効になってしまうケースは少ないです。しかし、以下のケースでは無効と判断される可能性がありますので注意して下さい。

遺言者に遺言能力がない

遺言者が遺言内容や効力について理解できる状態にある必要があります。そのため遺言作成時に、認知症や精神障害などで「遺言能力がなかった」と判断されると、遺言書が無効になります。

公証人も遺言作成時に簡単な確認をしますが、必ずしも認知症や精神障害を全て見抜けるわけではありません。そのため、遺言能力の有無で公正証書遺言が無効になってしまったケースも存在します。

証人が条件を満たしていない

公正証書遺言を作る場合、2人以上の証人が必要となります。ただし、未成年者、推定相続人及びその家族、財産を譲り受ける人及びその家族は証人になることができません。これらの人が証人となって作成された遺言書は無効になります。

遺言内容に誤りがあった場合

記載した内容に誤りがあったり、勘違いがあったりすると無効と判断されてしまいます。遺言内容は正確にまとめるよう十分注意して下さい。

公序良俗に反する

不倫関係を継続することを条件に不倫相手に有利な遺言書を作成するなど、公序良俗に反すると判断されると、無効と判断される場合があります。

遺言書の要件を満たしているだけでは不十分

遺言書の要件を満たしているだけでは不十分

遺言書の要件を満たしているだけでは相続トラブルを回避できません。他にも注意しておくポイントを解説します。

財産目録を作成する

財産目録とは、遺言者が保有する全ての相続財産をまとめたリストのことで、遺言書に添付することができます。相続人にどのような財産があるのか、正確に伝えるために必要です。

複数の銀行にお金を預けているだけでも、通帳を見つけられなければ、その財産の存在を確認するために手間と時間を要します。

最近では、ネットバンクやネット証券、暗号資産など、インターネット上で取引が完了し、郵便物が届かないケースも少なくありません。相続人の方がこれらの財産を正確にすべて見つけるのは困難です。

相続財産に誤解や漏れがあると、遺産分割協議がスムーズに進められないばかりか、トラブルになってしまう可能性もあります。

曖昧な書き方をしない

遺言書は、誰が読んでも正確に意味が分かるようにしておかなくてはなりません。

例えば、「私の預貯金は長女のA子にまかせます。」と言った遺言です。この場合の「まかせます」が何を意味しているのか読み取れません。

長女のA子に全額相続させるのか、長女のA子が主導で分配するのか、分かりません。この遺言書を持って銀行へ相続手続きに行っても、受け付けてもらえない可能性があります。

遺言書の内容に多少曖昧な部分があったとしても、それだけですべて無効になるわけではありませんが、遺言書の内容があまりにも曖昧で理解が困難な場合、遺言書としての効力が認められなくなる可能性もあります。

その結果、希望した通りに相続されないばかりか、相続人の間でトラブルとなってしまう場合もあります。

このような事態を避けるためにも、遺言書はできる限り具体的に記述しなくてはなりません。

遺留分に配慮する

遺留分とは、遺言書の内容に関わらず法定相続人に認められた最低限度の相続分です。

例えば、「私の全財産は長男のB夫に相続させます。」という遺言があった場合、他の法定相続人は何も相続することができません。しかし「自分の遺留分が侵害されている」と主張すれば、B夫から侵害されている遺留分にあたるお金を取り戻すことができます。これを遺留分減殺請求権と言います。

遺留分を侵害していても、その遺言書が無効になることはありません。しかし、相続人同士でトラブルになる可能性が非常に高くなります。相続トラブルを防ぐためにも遺留分に配慮した遺言内容にされることをお勧めします。

もし、相続財産を相続人同士で均等に分けられない場合は、付言事項を添付することをお勧めします。付言事項は遺言者の思いを自由に書くことができるため、なぜこのような財産の分け方をしたのか、その経緯を書き残すことができます。

例えば、相続財産が住宅2,000万円と預貯金300万円だったとします。この場合に、妻に住宅を相続させる旨の遺言書を書くと、子供達の遺留分が侵害されていることになります。

このような場合に、「自分がいなくなった後の妻の生活を守りたい」と書いておけば、内容を読んだ相続人が遺留分の請求を思いとどまってくれるかもしれません。付言事項には法的な効力はありませんが、相続トラブルのリスクを軽減してくれます。

相続人が遺言書を見つけられるようにしておく

遺言書は、要件に不備が無くても、公平な遺言内容になっていても、相続人が見つけられなければ意味がありません。しかし、見つけやすい場所に保管しておくと、勝手に開封されたり、偽造されたり、破棄されたりする心配があります。

そのような場合に便利な制度があります。

法務局が自筆証書遺言を預かってくれる制度があります。遺言者の所在地、本籍地、所有する不動産の所在地、いずれかが管轄する法務局へ申請することができます。相続が発生した際は、全国どこの法務局からでも交付の請求をすることができます。

公正証書遺言の場合は、公証役場が原本を保管してくれます。相続が発生した際に、どこの公証役場からでも検索できますので、遺言書が保管されている公証役場を特定できます。

このような制度を利用すれば、遺言書を見られることもありませんし、偽造されたり、破棄されたりする心配もありません。ただし、相続人の方には「遺言書が存在する」ことは伝えておかれたほうが良いでしょう。

遺言書を法務局や公証役場が預かってくれることを知らない人も多いので、探してもらえないリスクがあります。

まとめ

遺言書は法律で定められた様式で作成されていないと、無効になってしまいます。また、様式を満たしていても、不公平な内容になっていると、相続人同士でトラブルになったり、遺恨が残ってしまうかもしれません。

そのような事態を避けるためにも、作成方法などについて専門家のアドバイスを受けた方が安全と言えます。相続に関してお困りであれば、「アヴァンス法務事務所」へご相談ください。

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