子供がいないご夫婦の相続はどうなる?想定されるトラブルや対策について紹介

遺産相続

お子さんがいないご夫婦の遺産相続はどうなるのでしょうか。遺言書が無い場合は配偶者の親兄弟も相続人になり得ます。そのため、残された配偶者がすべての財産を相続できるとは限りません。

この記事では、民法で定められている法定相続人、法定相続分、遺留分について解説するとともに、想定されるトラブルや事前にできる対策について解説します。

子供がいないご夫婦の相続人は誰になる?

お子さんがいないご夫婦で、夫または妻のどちらかが亡くなった場合、誰が相続人になるのでしょうか。遺言書が無い場合は、民法が規定する法定相続人と呼ばれる人が相続人になります。

法定相続人は、大きく分けると配偶者相続人血族相続人の2つに分けられます。では、それぞれのケースについて具体的に見ていきましょう。

配偶者相続人

まず、法定相続人として考えられるのは、残された配偶者です。配偶者は他の相続人の有無にかかわらず、常に相続人となります。

ただし、配偶者とは、民法第739条において「市区町村役場に婚姻届出を提出し受理された者」と明確に定められています。つまり、婚姻届を出さずに事実婚や内縁関係にある人は、民法上の配偶者とは認められず、法定相続人にはならないので注意してください。

血族相続人

配偶者以外にも、「血族者」がいればその人も相続人になります。「血族」とは簡単に言うと「血のつながっている人」です。つまり、父母、祖父母、子供、孫、兄弟姉妹も相続人になる可能性が出てきます。

例外として、非嫡出子(認知されていない子供)と父親は、血はつながっているものの法律上の血族には含まれません。また、養子縁組をした養親と養子は、血のつながりはないものの、法律上の血族とされます。

ただし、血族者全員が相続人となる訳ではなく、民法で以下のとおり優先順位が決められています。

第1順位:子供

相続開始時に子供がすでに死亡している場合は、その子供の直系卑属(子供や孫など)が相続人になります。

第2順位:親、祖父母

子供がいない場合は直系尊属である親や祖父母が相続人になります。親と祖父母どちらも存命であれば、亡くなった人により近い親が優先されます。

第3順位:兄弟姉妹(または甥・姪)

子供、親、祖父母もいない場合は、兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は代襲相続によって甥・姪が相続人になります。

つまり、お子さんがいないご夫婦の場合、配偶者の他に、第2順位である親、祖父母、または第3順位である兄弟姉妹(または甥・姪)も相続人になる可能性があるのです。

例えば、夫が先になくなった場合は、妻と夫の親が相続人になります。もしも、夫の親がすでに亡くなっている場合は、妻と夫の兄弟姉妹が相続人になります。

また、夫の兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、代襲相続によって妻と甥・姪が相続人になります。

つまり、配偶者以外にも相続人がいるということです。また、民法では相続の割合についても規定されています。これを法定相続分と言います。

ただし、法定相続分はあくまで基準です。裁判所が審判で遺産の割合を決定する場合は「法定相続分」に従うことになっています。しかし、相続人全員で協議をして、同意が得られるなら、法定相続分と異なる分け方をしても問題ありません。

あくまで、相続人同士の話し合いで決められない場合に、参考にする基準と考えれば良いでしょう。

遺留分について

法定相続分と混同されやすいのが、遺留分です。遺留分とは、配偶者と直系卑属(子供など)、直系尊属(親など)に認められた、最低限の遺産取得割合を保障する制度です。

法定相続分と異なる点として、遺留分は兄弟姉妹や甥・姪には認められていません。

具体的に遺留分で問題となるのは、「私の財産は妻のA子に全て相続させる」と言った遺言書が残されていた場合など、不公平な遺産分割が行われたケースです。

本来なら受け取れる相続分を取り返すために、遺留分の権利を持つ相続人が、自身の権利を侵害している相続人に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます。これは相続人全員で行う必要はなく、他の相続人が請求を起こさない場合であっても、個別に請求できます。

なお、遺留分は原則として金銭で清算するとされているため、財産そのものは取り戻せません。話し合いによる解決が見込めない場合は、「遺留分侵害額調停」や「遺留分侵害額請求訴訟」に進むことになるでしょう。

どんなトラブルが想定される?

では、お子さんのいないご夫婦のどちらかが亡くなった場合、相続をめぐって具体的にどのようなトラブルが考えられるでしょうか。

配偶者と親族間の不仲によるトラブル

遺言書が無い場合は、法定相続人の範囲が義両親や義兄弟姉妹、甥・姪にまで広がります。

遺産分割の話し合い(遺産分割協議)を行うにあたっては、法定相続人全員に連絡を取らなければなりません。しかし、万が一配偶者と不仲の親族がいた場合、連絡を取ることすら困難になるかもしれません。

また、なんとか法定相続人全員を集め、遺産分割協議までこぎつけたとしても、それぞれの要望がまとまらないことは往々にして起こりえるでしょう。財産が少額であっても相続人全員の同意が必要となるため、費やす時間が増え、精神的な負担も大きくなってしまいます。

不動産など分けることが難しい財産によるトラブル

相続財産の大部分を自宅の不動産が占めるなど、財産を平等に分割しにくい場合に、相続人同士でトラブルになりやすいです。

不動産など分割しにくい財産の場合は、代償分割という方法をとることがあります。例えば、配偶者が不動産を相続し、他の相続人より多く相続した財産分を代償金という形で、他の相続人に支払い、清算する方法です。これにより、相続人同士の平等性を保ちます。

ただし、代償金は高額になることが多いです。代償金を支払うだけの現金がないために、住み慣れた家を売って遺産分割をするしかないケースや、預貯金を代償金に充てるしかないケースもあり、配偶者の今後の生活が困窮してしまう可能性が出てきます。

対策方法はあるのか?

相続トラブルを回避し、残されたご家族の負担を最小限に抑えるにはどうすればよいでしょうか。ここでは、代表的な対策方法を3つご紹介します。

遺言書を作成する

ご自身が亡くなった後に、誰にどの財産を相続してほしいか、遺言書で残しておくことが有効です。たとえば「配偶者にすべての財産を相続させる」旨の遺言書を残しておけば、配偶者に全ての財産を相続させることが可能です。

また、遺言書があれば、遺産分割協議を行う必要が無くなります。そのため、相続人全員に連絡を取って遺産分割の話し合いを行うといった作業が必要ありませんので、残されたご家族の負担軽減にもつながります。

ただし、「配偶者にすべての財産を相続させる」旨の遺言書を残しても、親・祖父母には遺留分があります。こちらの対策については後述の「生命保険を活用する」の項目で解説します。

生前に財産を配偶者へ贈与する

2つ目の方法として、配偶者に生前贈与を行うことも得策です。

ただし、年間110万円以上の贈与には贈与税がかかるため、年間110万円を超えない範囲で行うなどの対策が必要です。また、死亡3年以内の贈与には110万円以下であっても、相続税が課税されるため、早めに対策を行った方がいいでしょう。

また、配偶者に自宅を贈与する場合、婚姻期間が20年以上であれば、贈与税の配偶者控除が受けられます。これは残された配偶者の住む場所を保障する制度であり、上記の生前贈与の基礎控除(110万円)に加えて、最高2,000万円まで控除が受けられます。

生命保険を活用する

ご自身が亡くなった後の生命保険の受取人を配偶者に指定しておけば、配偶者は死亡保険金を受け取ることができます。

遺言書によって、すべての財産を配偶者に相続させる旨を遺していたとしても、親・祖父母には遺留分を請求する権利があります。もしも、遺留分を請求された場合の代償金として備えておくことが可能です。

生命保険に入っているのであれば、受取人や保険金額などの契約内容をあらためて見直し、いざというときのために備えておきましょう。

子供のいないご夫婦こそ遺言書が必要になる

お子さんのいないご夫婦の場合、配偶者以外に義両親や義兄弟姉妹、甥・姪など幅広い範囲の相続人が発生する可能性があります。相続財産が分散されてしまい、残された配偶者は、ご自身が暮らしていた家を失ったり、今後の生活が苦しくなってしまったりする可能性が出てきます。

そのため、「子供がいないから相続問題は無縁」と気楽に考えていると危険です。ご自身が亡くなった後、誰にどの財産を受け取ってほしいのか、あらかじめ遺言書として残しておくことが重要です。

遺言書を作成するメリットとしては、

  • 配偶者に全財産を相続させられる
  • 自分の意図しない相手にまで遺産が渡ることを防げる
  • 残された配偶者は、義理の親や兄弟姉妹と遺産分割協議をする負担がなくなる

といったことが挙げられるでしょう。

遺言書の詳しい書き方はこちらの記事を参照してください。

まとめ

お子さんがいないご夫婦の場合、義両親や兄弟姉妹、甥や姪も相続人になりえます。遺言書が無い場合は、残された配偶者がすべての財産を相続できるケースは稀です。

ご自身が亡くなった後に、相続手続きに手間がかかったり、相続トラブルになったりしないよう、あらかじめ遺言書を作成しておくことが非常に有効な対策です。

とはいえ、遺言書をどうやって書けばいいのかなど、疑問を抱えることもあるでしょう。

相続について気になることがあれば一人で悩まず、専門家の力を借りることも手段です。どこに聞けばよいか分からない方は、アヴァンス法務事務所へご相談ください。いざという時に慌てないためにも、早めに準備しておきましょう。