配偶者や親族が亡くなり、遺産相続の手続きを進めようと思っても、相続人の中に連絡が取れない人がいると、手続きを進められません。
他の相続人だけで進めてしまってもいいのか?手続きを先延ばしにしても大丈夫なのか?そんな疑問を解説します。
家族構成の多様化、核家族化が進み、実の親子、兄弟姉妹であっても疎遠になってしまうご家庭もあります。いざ、相続の段になって困らないよう、生前にできる対策もご紹介します。
連絡が取れない相続人がいるとどんな困ったことが起こるのか
被相続人(亡くなった方)の遺産分割を行う際に、連絡が取れない相続人がいた場合、どんな困りごとが起こるのでしょうか。
遺産分割協議ができない
遺言書が無い場合は、相続人同士で話し合って、「誰が」「どの財産を」「どの割合で」取得するのかを決めなくてはいけません。これを遺産分割協議と言います。
この遺産分割協議は必ず相続人全員の参加と同意が必要です。ひとりでも欠けていると、その協議は無効になります。
遺産分割協議ができなければ相続手続きを進められません。不動産や預貯金など、被相続人の財産を動かせない状態になってしまいます。
不動産を売却・処分できない
遺産分割協議ができないため、被相続人が所有していた不動産は相続人全員の共有状態になります。この場合、共有者全員の合意がなければ、売却・処分ができません。
そのため、連絡が取れない相続人がいると、自宅などの不動産が活用できなくなります。
もし、空き家になった自宅を長期間放置してしまうと、不審者が住み着いたり、不法投棄をされたり、放火犯の標的になったりと、リスクを伴います。
また、老朽化した建物が崩れたり、落下物などでけが人が出た場合は、所有者に損害賠償責任があります。そのため、誰も住んでいなくても定期的なメンテナンスが必要になります。さらに、固定資産税も毎年発生します。
誰も住まない建物を売却することも、処分することも、賃貸に利用することもできないのに、メンテナンスのコストと固定資産税の負担を負うことになります。
預貯金や株式の名義変更ができない
遺産分割協議書が作成できないと、口座の名義変更や預貯金の引き出しができません。
預貯金の一部を相続人が単独で引き出せる、相続預貯金の仮払い制度もありますが、全額は引き出せません。また、銀行が口座の名義人が亡くなったことを知ると、その口座は凍結されます。
凍結された口座を解除するには、相続人全員の協力が必要になるため、被相続人の銀行口座が動かせなくなります。同様に株式や自動車などの名義変更もできません。
相続税の減税措置が受けられない可能性がある
相続税は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告・納付しなくてはいけません。
この期限までに遺産分割ができていない場合は、法定相続人が法定相続分で相続したものと仮定して申告することになります。この場合、相続税の減税措置である「配偶者控除」や「小規模宅地等の特例」を適用できません。
これらの減税措置が受けられないと、税負担がかなり大きくなってしまいます。
※ただし、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割ができそうであれば、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、特例として適用を受けることが可能です。
連絡が取れない相続人がいる場合の対処法
連絡が取れないからと言って、その方を除いて相続手続きを進めることはできません。何とか探し出して、遺産分割協議に参加してもらわなくてはいけません。
では、具体的にどのように対処すればいいのか解説します。
「戸籍附票」を取り寄せて現住所を調べる
まずは、戸籍附票を取り寄せて現住所を調べてみましょう。
戸籍附票とは、本籍地の市区町村で戸籍の原本に付随して保管されている書類で、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住民票上の住所が記載されています。この附票を取り寄せ、住所がわかれば、手紙を送るなどの方法で連絡を取ってみましょう。
ただし、他人が戸籍附票を取得することはできません。相手が独立して戸籍を作っている場合は、戸籍附票の取得を申請しても発行してくれません。
戸籍附票を取得できるのは、本人、配偶者、直系血族(父母、祖父母、子、孫など)です。行方不明の人が被相続人の戸籍に入っていたり、兄弟姉妹の続柄でご自身と同じ戸籍に入っていれば取得が可能です。
もしも、戸籍附票の取得が難しいようでしたら司法書士、弁護士に依頼した方がスムーズに進められるでしょう。
「不在者財産管理人」を選任する
住所が分かっても、その場所に住んでいない場合もあります。住民票の住所に住んでいない場合、法律上の行方不明者として扱われます。相続人の中に行方不明者がいる場合は、不在者財産管理人を選任します。
不在者財産管理人とは、行方不明者の財産管理をする人のことで、一般的には行方不明者と利害関係のない人が選任されます。また、司法書士や弁護士に依頼するケースもあります。
不在者財産管理人が選任されれば、行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加し、相続手続きを進められます。
不在者財産管理人を選任するには、行方不明者が住んでいた地域の家庭裁判所に申立てます。申立てができるのは、行方不明者の配偶者や遺産分割協議をしたい他の相続人、債権者等の利害関係者、検察官です。
「失踪宣告」を行う
連絡が取れない相続人がいて、生死不明の場合は、失踪宣告の手続きを行うのもひとつの手段です。失踪宣告とは、行方不明の人を法律上、「死亡した」と同様の扱いにする手続きです。
失踪宣告には、「普通失踪」と「特別失踪」があります。
普通失踪は、生死不明の状態になってから7年が経過すると認められます。特別失踪は、海難事故や災害などの危難によって生死不明になった場合、その危難が去ってから1年以上、生死不明の状態が続くと認められます。
失踪宣告を行うと、その行方不明者は「死亡した」扱いになるため、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。ただし、失踪宣告を受けた相続人に配偶者やお子さんなど、さらに相続人がいる場合はその人を遺産分割協議に参加させなくてはいけません。
連絡は取れるが、遺産分割協議に応じないケース
行方不明になっているわけでもなく、連絡も取れるものの、遺産分割協議に応じない相続人がいる場合があります。例えば、被相続人やご家族と不仲であったり、前妻との子供など面識がないケースです。
このような場合の対処方法を解説します。
家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てる
遺産分割協議に応じない相続人がいる場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。
遺産分割調停とは、被相続人の財産をどのように分配するのか、調停委員に間に入ってもらい、話し合いで解決する方法です。
遺産分割調停は、相手側の住所地を管轄する家庭裁判所か、当事者同士が合意で定めた家庭裁判所に申立てを行います。後日、申立人と相続人全員に調停日が記載された呼出状が送付されます。
その日に相続人全員で家庭裁判所に出頭し、それぞれが調停委員と話をして、自身の言い分を主張します。話し合いの後、調停委員が中立的な立場から解決案を提示してくれます。これで話がまとまれば、調停証書が作成されて調停完了となります。
1回目の調停で話し合いがまとまらない場合は、2回、3回と調停を繰り返します。どうしても話し合いがまとまらず、調停が不成立になった場合は、遺産分割審判へ移行します。この場合は、それぞれの主張や証拠書類に基づいて、裁判官が遺産の分割方法を決めます。
遺言書があれば遺産分割協議を行わなくていい
ここまでで、連絡が取れない相続人がいる場合の対処方法を解説しました。
戸籍附票を請求したり、連絡をしたり、裁判所に申立てをしたりというのは、時間的にも精神的にも負担になる作業です。また、法律の知識がない方がご自身で進めるのはさらに難易度が高いでしょう。
そこで、事前にできる有効な手段として遺言書があります。
遺言書によって財産の分配方法が明記されていれば、遺産分割協議を行う必要がありません。遺言書の通りに財産を分配する場合は、協議するべき内容がないからです。また、遺言書で相続人に指定されている方のみと連絡が取れれば問題ありません
そのため、不仲や疎遠で連絡が付かない、行方不明になっている相続人がいるなら、その人以外の方に財産を相続させる旨の遺言書を書いておけば、連絡が取れない相続人を関与させることなく、相続手続きが進められます。
ただし、遺言書には法律で定められた要件があります。遺言書に不備があると、せっかく書いた遺言書が無効になってしまい、結局は遺産分割協議を行わなくてはならなくなります。
そうならないためにも、遺言書の書き方を確認しておきましょう。
まとめ
遺産分割協議を行いたいが、連絡が取れない相続人いる。このような場合は、戸籍附票を取り寄せるなどで、何とか連絡を取らなくてはいけません。もしも、見つからない場合は、不在者財産管理人を選任したり、失踪宣告をしたりと、法的な手続きを検討しなくてはいけません。
不仲や疎遠によって、連絡はとれるものの、遺産分割協議に参加しない場合もあるでしょう。どうしても解決できないなら、家庭裁判所で調停を行うしかありません。
このように、「連絡が取れない相続人」がいると、相続手続きが困難を極めます。その予防策として遺言書が重要な役割を果たします。
これらを法律の知識のない方がご自身で行うのは難しいです。相続に関する手続きはアヴァンス法務事務所にご相談ください。
ご遺族の負担を減らし、スムーズな問題解決をサポートします。