遺言書が遺されていたけど、特定の相続人に財産が偏っている。このような場合はどうすればいいでしょうか。遺言書の内容は絶対に従わなくてはいけないのでしょうか?
この記事では、不公平な遺言が遺されていた場合の対処方法を解説します。
遺言書の内容は絶対に従わなくてはいけないのか?
被相続人(亡くなった人)が遺言書を遺していた場合、基本的にはその内容に従って遺産分割がされます。
生前であれば、被相続人の意思で自由に処分できたはずの財産ですので、被相続人の意思を反映させた遺言書が優先されます。
しかし、相続人全員の同意があれば、遺言書とは異なる遺産分割を行えます。相続した財産をどう使うかは相続人の自由です。そのため、遺言書の内容が相続トラブルを招くなど、不都合がある場合は、相続人同士で話し合い、遺言書と異なる遺産分割をすることができます。
遺言書通りの遺産分割をしなかったからと言って、「違法」になる訳ではないのでご安心ください。
ただし、遺言書の偽造・隠蔽・破棄・隠匿は違法です。あくまで、相続人全員の協議によって分割方法を決めます。
不公平な遺言だった場合はどうすれば良いのか?
遺言書がある場合は、基本的にその内容に従って遺産分割されます。しかし、中には不公平な内容の遺言が遺されていることもあるでしょう。その場合の対応方法を解説します。
「遺留分」という権利がある
遺留分とは、民法によって一定範囲の相続人に最低限保証された、相続割合のことです。これは、被相続人の経済力を頼りに暮らしていた法定相続人の生活保障の確保を目的として設けられた制度です。
例えば、父、母、子のご家庭で父が亡くなりました。父が不倫相手に全ての財産を相続させる旨の遺言書を遺していた場合、残された母と子の生活が困窮してしまう可能性があります。
この場合、母と子は遺留分侵害額請求を行えば、侵害された遺留分の財産を受け取ることができます。
遺留分の割合とは?
遺留分の割合は、下記の通りに定められています。
配偶者のみ
法定相続人が配偶者のみの場合、配偶者の遺留分は「1/2」です。
配偶者と子供
法定相続人が配偶者と子供の場合、配偶者の遺留分が「1/4」子供の遺留分が「1/4」です。子供が複数人いる場合は、子供の人数で均等に分割します。
配偶者と父母
法定相続人が配偶者と父母の場合、配偶者の遺留分が「1/3」父母の遺留分が「1/6」です。ご両親ともご健在の場合は、1/6をさらに2分割します。
兄弟姉妹
兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分が認められない「相続欠格者」
相続欠陥者とは、相続の権利を失った人のことを言います。
例えば、相続財産を得るために、他の相続人や被相続人などを殺害した場合は、欠格事由に該当します。なお、殺人未遂も同様です。また殺害した者をかばうために、告訴・告発を行わなかったときもこれに該当します。
その他、詐欺や強迫により遺言の撤回・変更をさせた場合や、相続開始後に発見した遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿した場合も、相続欠格者となるケースがあります。
法定相続人であっても、相続欠格者が遺留分を請求しても認められません。
遺留分侵害額請求とは
遺留分を侵害されていても、自ら主張しなければ取り戻せません。
遺留分を侵害している人に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求します。これを「遺留分侵害額請求」と言います。
ただし、この請求によって遺言自体が無効になることはありません。
遺留分侵害額請求の手順
①相続人同士で話し合う
まずは、相続人同士で話し合い、解決を図ります。
この時に、話し合いの内容を録音や書面に残すなど、後から内容を確認できるようにしておきましょう。また、弁護士など第三者に間に入ってもらっても良いでしょう。
話し合いが無事に成立したら、後々のトラブルを防ぐためにも、合意書を取り交わしておきましょう。
②家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
話し合いによる解決が難しい場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。
調停では、調停委員が第三者の立場から双方の主張を聞き、調停を進めていきます。当事者間で話し合うよりも感情的になりにくいため、冷静に話し合いを進められるのがメリットです。
何度か話し合いを重ね、お互いが合意すれば調停成立となります。
③裁判所に遺留分侵害額の請求訴訟を申し立てる
調停でも解決できない場合は、訴訟で解決するしかありません。
遺留分の権利を持つ人が訴状を作成し、相手方もしくはあなたの住所地を管轄する裁判所に提出し、訴訟を提起します。主張したい事実に対する証拠集めなども必要になってくるため、弁護士に相談されたほうが良いでしょう。
時効・除斥期間があるので早めに請求する
遺留分の請求には「時効」と「除斥」の期間が設けられています。
相続の開始、もしくは遺留分を侵害した贈与・遺贈があることを知った日を起算日として、1年で時効を迎えます。
時効の進行を止めるには、配達証明付き内容証明郵便で必要な書類を相手方に送付し、遺留分侵害請求の意思を伝えなければなりません。
ただし、遺留分請求後の消滅時効は5年と定められているため、いったん請求を行ったからといって制限なく放置できるわけではありません。
また、遺留分を侵害されていることを知らなかったとしても、相続開始から10年経過すると、権利が消滅します。これを除斥と言います。
相続争いを避けるためにできること
遺留分侵害額請求などの相続トラブルは、その後の関係性を悪化させてしまうことが多いです。表面上は解決しても、わだかまりが残ることも多いでしょう。このような事態を避けるために、生前からできる対策も解説します。
生命保険を遺留分に充てられるようにしておく
生命保険の保険金を遺留分対策として活用できます。
よくあるのが、財産を多く相続させたい相続人を生命保険の受取人に指定し、この保険金を遺留分の支払に充てる方法です。
ただし、保険金が著しく高額である場合は「特別受益」とみなされ、相続財産の対象として持戻しとなる例外があるため注意が必要です。
遺言書の付言事項を活用する
遺言書に付言事項を追加することで、相続トラブルのリスクを軽減する効果があります。
付言事項には法的な拘束力はありませんが、なぜこのような財産の分け方をしたのか、その背景を書き記しておくことで、他の相続人が遺留分の請求を思いとどまってくれるかも知れません。
例えば、「今後の妻の生活を守るために、多く相続させます。」「長年、介護をしてくれた次男に多く相続させます。」などです。
家族間でしっかりと話し合う
遺言書や付言事項だけでなく、生前にご家族と話し合いをしておくのも重要な対策です。財産の相続配分を話しておき、理解が得られていれば、争いを未然に防ぐことができるでしょう。
まとめ
遺産相続は、基本的に亡くなった方の意思である遺言書が優先されます。
しかし、配偶者や子供などには遺留分として、最低限相続できる財産の割合が保証されています。もし、その権利が侵害されているなら遺留分侵害額請求によって取り戻すことができます。
遺留分は、ご自身で主張しなければ取り戻すことができません。「自分で請求をするのは不安」「請求に応じてくれない」という方はアヴァンス法務事務所にお気軽にご相談ください。弁護士・税理士など提携先のご紹介もさせていただきます。