相続トラブルは、資産家や家族構成が複雑な家庭で起こるものだと思っていないでしょうか?実は、相続トラブルの大半は、ごく普通の一般家庭で起きています。「うちはそんなにお金持ちでもないし、大丈夫」と思っていると危険です。
本記事ではよくある相続トラブルの原因と、その対策について解説します。
相続トラブルは一般家庭のほうが起こりやすい
裁判所の司法統計によると、令和二年度の遺産分割事件のうち5000万円以下の事件数は、全体の約78%を占めています。また、このうち1000万円以下が占める割合は約35%となっており、相続トラブルは一般家庭に多く起きていることがうかがえます。
トラブルの原因はさまざまに考えられますが、実はとても身近で、決して他人事ではありません。
相続トラブルが起こる原因とは?
具体的に相続トラブルが起こる原因には、何が挙げられるでしょうか。トラブルの原因をひもといてみると、相続人の心情が深く関係していることがわかります。ここでは主だったものをいくつか紹介します。
相続トラブル原因1:財産を均等に分割しにくい
相続財産の内、不動産が占める割合が大きいなど、財産を均等に分けることが難しい場合に相続トラブルが起こりやすいです。
例えば、配偶者が亡くなっており、子供3人が相続人のご家庭で、相続財産が2,000万円の実家と300万円の預貯金だったとします。この場合、実家を長男のA夫が相続すると、残りの兄弟は預貯金を150万円ずつしか受け取ることができず、不平等になります。
この時に実家を売却して、兄弟で均等に分けられればいいのですが、長男A夫が実家に住んでいたり、実家の売却に抵抗があったりする場合は、話し合いが難航してしまい、相続トラブルになりかねません。
相続トラブル原因2:相続財産が不透明
どこにどのような財産があるかわからない、思ったより少ない、といったこともトラブルの原因になります。
例えば、土地や株、預貯金などを持っていたはずだが、どうなっているのか分からない、といった場合は探すだけでも一苦労でしょう。想定よりも財産が少ないと、家族の誰かが使い込んだのではないかと、疑心暗鬼になってしまうこともあります。
また、最近はネットバンクやネット証券など、インターネット上で取引が完結してしまう財産も多く、相続人の方がこれらを探し出すのは困難です。もし存在を見つけられてもIDとPWがなければアクセスすることもできません。
財産の調査を誰が負担するのか、それだけでも揉める原因になり得ます。このように、相続財産の内容が不透明であればあるほど、相続人の手間も増え、トラブルの原因になります。
相続トラブル原因3:一部の相続人が財産を独占している
一部の相続人が財産を独占してしまい、トラブルになるケースがあります。例えば、遺言書に「私の財産は長男A夫に全て相続させる」と言った内容だった場合です。
これは明治から昭和初期まで施行されていた、家督相続制度に起因していると考えられます。この制度では、長男だけが全ての遺産を相続するのが原則として定められていましたが、この制度は昭和22年に廃止され、現在の法律では認められていません。
このような場合、遺留分が認められている法定相続人が遺留分侵害請求を行えば、最低限の財産を受け取ることができます。しかし、相続人同士の遺恨が残る可能性もあります。
相続トラブル原因4:不平等感を抱いてしまう
先述の一部の相続人が財産を独占している場合など、財産の分け方に相続人が不平等感を抱いてしまうことが、相続トラブルの原因になります。他にもよくあるケースが、寄与分、特別受益が挙げられます。
寄与分
寄与分は、被相続人(亡くなった人)の財産の維持や増加に貢献した人に対して、他の相続人よりも多く財産を分配してもらえる制度です。例えば、要介護の父を介護し続けた子供が該当します。
特別受益
一部の相続人が、被相続人から贈与を受けていた場合、そのことを考慮せずに遺産分割をしてしまうと、不公平になってしまいます。そのため、特別受益にあたる財産も相続財産に含めて財産を分配する制度です。例えば、生前贈与などがこれにあたります。
相続人の誰かが寄与分を請求すると、他の相続人が受け取れる財産が減ります。また、相続人の誰かが特別受益を受けていて、それを考慮せずに遺産分割を行ってしまうと、他の相続人は不満に思うでしょう。
これらが原因で話し合いがまとまらず、調停に持ち込むまで状況が悪化してしまうと、家族仲に亀裂が入ってしまいます。
相続トラブル原因5:相続人同士が不仲
兄弟姉妹や配偶者との不仲が、相続トラブルに発展するケースもあります。財産は基本的に配偶者が最も多くもらえますが、兄弟姉妹も同じ分配比率でもらえると勘違いしているなど、法定相続分に対しての理解が足りない場合、相続人同士の不仲が相まってトラブルになることも少なくありません。
また、遺言書があったとしてもその内容が不平等であれば、揉め事の一因になります。相続人同士が不仲だと、ちょっとした考え方の違いやすれ違いによっても、トラブルが発生してしまいます。
相続トラブル原因6:遺産分割協議に参加しない人がいる
遺言書がない場合は、どのように財産を分割するか、相続人同士で話し合いを行わなくてはいけません。これを遺産分割協議と言うのですが、相続人全員の参加が必要です。もし、遺産分割協議に参加しない相続人がいると、遺産分割協議が成立しません。
遺産分割協議が成立しないと、預貯金や不動産の名義変更など、故人の財産を動かすことができません。
相続トラブル原因7:被相続人に借金がある
故人に借金があった場合、誰が相続するのかでトラブルになるケースがあります。借金も相続財産に含まれるため、借金の押し付け合いになってしまうかもしれません。
相続放棄と言う手段もあるのですが、住宅など他に相続したい財産がある場合は、限定承認を含めて検討する必要があります。ただし、限定承認は時間と手間がかかります。
トラブルを回避するにはどうすれば良いのか
回避方法1:遺言書を作成する
相続トラブルを回避するために、遺言書の作成をお勧めします。この時に、遺留分や寄与分、特別受益に配慮した内容にされることをお勧めします。
また、遺言書があれば、遺産分割協議を行う必要がありません。遺言書で指定された人のみが相続人になりますので、甥・姪など親戚関係が薄く、遺産分割協議に協力してくれなさそうな人を、予め相続から外すことが可能です。(ただし、遺留分には注意してください。)
また、遺言書があれば、相続手続きもスムーズに進めやすいため、相続人同士が不仲な場合も有効な手段です。
遺留分や法定相続人の定義はやや複雑な仕組みになっていますので、下記の記事を参考にしてください。
回避策2:付言事項を書いておく
付言事項とは、遺言書に添付することができる記載事項です。必ず書かなくてはいけないものではありませんが、遺言者の思いを相続人に伝えることができます。
例えば、「長年、介護をしてくれた長男に多く財産を遺したい(寄与分)」「次男には学費を援助したので財産の配分を減らします(特別受益)」など、相続財産をなぜこのように分けたか、その理由を書き残すことができます。
また不動産など、どうしても財産を平等に分けられない場合に「妻の生活を守るために不動産は妻に遺したい」といった理由を付け足しておけば、他の相続人が遺留分の請求を思いとどまってくれるかもしれません。
付言事項には法的な拘力はありませんが、相続人同士の不平等感を軽減してくれるかもしれません。
回避策3:財産目録を作成しておく
遺言書に財産目録を添付しておくことで、相続トラブルを防ぐことが可能です。
相続財産が不透明だと、相続人が財産調査をしなくてはいけません。預貯金や株式など形があるものは分かりやすいのですが、ネットバンクや暗号資産など、インターネット上で完結できるものは存在自体を見つけることが困難です。
不動産の正確な地番や面積の調査など、ご家族が調査するのは負担になるでしょう。また、借金がある場合は、他の財産と一緒に一覧にしておくことで、相続放棄をする・しないを判断する時間的な余裕を作ることができます。
まとめ
ご紹介したように、相続トラブルはどんなご家庭でも起こり得ます。また、法律で画一的に解決しきれない面もありますし、不動産などの分割しにくい財産やそれぞれの相続人の事情など、様々な要因が絡み合って相続トラブルが起こります。
相続問題で家族仲に亀裂が入ってしまうのは、どなたでも避けたいものです。そのためにも遺言書の作成をお勧めします。遺留分や法廷相続人の定義など、法的な部分でご不安がある場合はアヴァンス法務事務所にご相談ください。