遺産相続において起こる問題のひとつが、家族との思い出が詰まった実家をどうするかです。立地や状況が許せば、そのまま居住するという選択もありますが、場合によっては売却したほうがよい場合もあります。
そこで本記事では、実家を相続した場合のメリット・デメリットを解説すると共に、売却方法についても解説します。
実家を相続した場合のメリット
実家を相続するメリットがあるのは、下記のように、ご自身が住むなど不動産を活用できる場合です。
- 自分の持ち家として所有できる
- 賃貸物件として運用できる
- 駐車場など別の用途に利用できる
ですが、相続人の方の生活状況や実家の立地条件によっては、かえって実家の相続がデメリットになるかもしれません。では、次の項目で解説していきましょう。
実家を相続した場合のデメリット
実家を相続するデメリットがあるのは、売却もできず、他の用途にも利用できない場合です。特にどういったことがデメリットになるのか解説します。
固定資産税がかかる
相続した実家が空き家でも、固定資産税は毎年発生します。
利用されていない空き家であっても「住宅」と認められれば、固定資産税の軽減措置が適用されます。しかし、特定空き家に認定されてしまうと、この軽減措置が適用されず、最大で6倍の固定資産税を払うことになります。
この特定空き家とは、倒壊や落下物などの危険性があったり、ごみの放置や不法投棄など衛生上の問題があったりする空き家を指します。このまま放置すると周辺地域の住民の安全上・衛生上の危険があると自治体が判断した場合は、特定空き家に認定されてしまいます。
※建物を解体して土地だけを所有した場合も、固定資産税の軽減措置が適用されません。
空き家を適切に管理しなくてはいけない
空き家の所有者は家屋を適切に管理する必要があります。
建物が老朽化して倒壊したり、落下物によって他人を傷つけてしまったりした場合、損害賠償責任を問われるのは管理義務を怠った所有者自身です。
また、空き家が明らかに危険な状態で、周辺住民の安全を損なうと判断された場合は、自治体が行政代執行を行い、強制的に建物を解体されてしまう可能性もあります。その際の解体費用は所有者本人に請求されます。
このように、損害賠償や強制解体のリスクがあるため、適切に管理しなくてはいけません。
人が住まなくなった家屋は傷みが加速します。定期的に換気や掃除に訪れるか、管理業者に委託するなどの対応を考えなくてはいけません。
売却が難しい
売却するつもりで住宅を相続しても、買い手が見つからない場合もあります。
例えば平成以前、とりわけ1981年以前に建てられた住宅は、現在の耐震基準を満たしていない可能性があります。
こうした物件は既存不適格物件といわれ、「買い手が住宅ローンを利用できない」「増改築などをする場合は、現行の建築基準に適合させる必要がある」などの大きなデメリットがあるため、売却が難しくなります。
このような老朽化が進んでいる物件は買い手が付きにくく、リフォームや解体をしてから売却するというのもひとつの方法です。しかし、リフォーム費用や解体費用を回収できるだけの売却益を得られるかは分かりません。
相続放棄もひとつの手段
相続した実家を有効活用できるなら、何も問題はありません。しかし、実家が過疎地で誰も住まない、貸せない、売れない、このような状態の住宅を所有していると固定資産税や維持・管理のコストが継続的にかかってしまいます。
有効活用できない実家を相続すると、かえって負担になる場合は「相続放棄」を選択しても良いでしょう。ただし、相続放棄をするとその他の財産も相続できなくなります。住宅を含めて「すべて相続する」か「すべて相続しない」のどちらかしか選べないため、慎重に判断しましょう。
また、相続放棄は相続が発生したことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てをしなくてはいけません。この期日を過ぎてしまうと、自動的に相続したことになってしまいます。
相続放棄をしても管理義務は残る
相続放棄の手続きをすれば、固定資産税はかからなくなります。しかし、他の相続人全員も相続放棄をした場合は、最後に相続放棄をした人が不動産を管理しなくてはいけません。この場合、不動産の所有権はないのに、管理義務だけが残ることになります。
誰も住まないなら売却した方がいい?
相続した実家には様々な思い入れがあるでしょうし、将来、ご自身が住むために適切な管理をしながら所有し続けるなら問題はありません。
ですが、誰も住む予定もなく老朽化が進んで行ってしまうと、維持・管理のコストが負担になります。もし、相続した実家に誰も住む予定が無いのであれば、早めの売却を検討した方が得策です。
不動産の売却に関する特別控除
不動産を売却して得た利益に対して譲渡所得税という税金がかかるのですが、この税金を軽減できる特別控除があります。しかし、これらの特例を受けるには3年以内という期限がありますので早めにご検討ください。
居住用財産の3,000万円特別控除
ご自身が住んでいた住宅を売却する場合に受けられる控除です。住まなくなってから3年後の12月31日までに売却した際に、最高3,000万円を控除できる特例です。
空き家の3,000万円特別控除
亡くなった方の住宅が空き家になっていた場合に受けられる控除です。相続開始日から3年後の12月31日までに売却すれば、最高3,000万円を控除できる特例です。
この特別控除は、誰も住まないまま放置されている、危険な空き家の増加が社会問題になっており、その対策として設けられました。これは令和5年(2023年)12月31日までの特例です。
相続税の取得費加算の特例
売却したい不動産が相続で得たものの場合に受けられる控除です。相続開始日から3年10か月以内に売却すれば、相続税の一部を取得費に上乗せできる特例です。
これは、同一の不動産に対して相続税と譲渡所得税を2重に課税すると、相続人の方の負担が大きいため、相続から3年以内なら、すでに支払った相続税分を控除するという仕組みです。
これらの譲渡所得税の控除には、様々な規定が設けられています。詳しくは下記の記事を参照してください。
実家を売却する手順
実家を売却する際の手続きは、次のような流れで進めることになります。なお、以下の手続きは不動産会社を通して実家の売却をする場合を想定しています。
- 実家周辺の不動産相場などを情報収集し、売却額の見通しを立てる
- 不動産会社に売却の相談をする
- 不動産会社に実家の不動産価値を査定してもらう
- 不動産会社を通して実家の買い手を探してもらう
- 購入希望者の内覧など売却活動を行う
- 購入希望者と売買契約を締結する
- 決済を完了し、実家を購入希望者に引き渡す
- 確定申告を行い、各種の税金を支払う
以上の流れはもちろん非常に簡素に説明したものです。例えば、不動産価値の査定は不動産会社によって異なるので、複数の会社に相談した上で委任先を判断したほうがよいでしょう。
また、希望通りの額で実家を売却するには、実家をなるべく綺麗に整備し、購入希望者に好印象を与える必要があります。
なお、実家を共有名義で相続していた場合は、共有名義者全員の同意がなければ売却ができないので、後になって相続人同士でトラブルにならないように、十分な意思統一を図っておくことが非常に重要です。
実家の売却に必要な書類
実家を売却するために必要な主な書類は以下の通りです。不動産会社を通して実家の売却をする場合、以下の書類を不動産会社の担当者へ渡します。
- 顔写真のある身分証明書
- 実印と印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
- 住民票の写し(発行から3ヶ月以内)
- 登記済権利書または登記識別情報
- 地積測量図・境界確認書
- 建築確認済証・検査済証
- 固定資産税評価証明書
1)から4)は売主の身分を証明するための書類、5)から7)は売買物件の内容を証明するための書類です。相続時の書類に地積測量図などがなかった場合、ケースによっては改めて測量を実施し、書類を作成する必要があります。
売却前に相続登記が必要
実家の名義が亡くなった方のままでは売却ができません。実家の所有者の名義を相続人の方に変更する相続登記が必要です。相続登記は、下記の書類を用意した上で法務局に登記申請しなければなりません。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍一式
- 被相続人の戸籍附票
- 法定相続人全員の戸籍謄本
- 新たに登記名義人となる相続人の戸籍附票
- 固定資産評価証明書or固定資産税課税明細書
※上記の他、必要に応じて遺言書や遺産分割協議書、印鑑証明書、相続放棄申述受理証明書などケースバイケースで必要な書類が異なります。
まとめ
実家の相続にはメリットもデメリットもあります。特に、誰も住まず、他の用途に活用する予定もない場合は、早めに対処方法を検討されたほうが良いでしょう。
空き家のまま放置してしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれるかもしれません。建物の倒壊や落下物によって被害が出た場合は、損害賠償を求められるかもしれませんし、放火など人命にかかわる事態にもなりかねません。
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